プロローグ

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   住み込みで働く鈴音にしてみれば、毎日目にする光景である。その中にあって、初めて屋敷に訪れた人間には異質に映る存在があった。それは、千葉市内の戸建て住宅では、中々お目にかかれない建造物。  ただ母屋である日本家屋を見れば、決して異様に映らぬ白壁に黒い屋根瓦の別棟。昔からの豪商や地主の家には存在した、土蔵と呼ばれる昔ながらの倉庫。  一般的には「蔵」と呼ばれ、鈴音は雇い主よりその中への進入を禁じられている。  鈴音は、そんな蔵の扉に違和感を覚え、吸い寄せられるように近付いた。蔵正面の扉は、重々しい佇まいで彼女の進入を拒んでいるようであった。  だが違和感は、その扉に挟み込まれたもの。中に、入る必要は無い 「何だろ、これ……」  そう呟きながら、鈴音は蔵の扉に挟み込まれた「それ」を手に取った。  それは、和風の蔵には似つかわしく無い、西洋風で光沢のあるメッセージカード。
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