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二人を接客用のテーブルへと案内する。
ーーーーーー
「ごゆっくりぃ」
母はいつものようにテーブルに「田舎の最上級おもてなしセットか」を並べ早足で居間へと戻って行く。日々の楽しみ、サスペンス劇場の再放送の時間である。
「石屋さんのお母様のごちそう、すっごく美味しいんだよ!」
彼女は瞳を輝かせながら寄り添う青年に話しかける。
「あっ、すみません。一口いただきますね」
「遠慮しないでください。沢山食べていただけると母も喜ぶので。」
とても大人しめの誠実そうな青年である。
美味しそうに、幸せそうに、おもてなし料理を食べる二人の姿はまるで新婚夫婦の食事風景を見ているかのようだ。
「ペンダントの方、お渡しいたしますね」
私は店の奥の棚から一つの白い箱を取り出す。紅谷様から依頼されていた紅水晶のペンダントである。
「こちらになります」
手渡された箱の蓋を開けた彼女の瞳はさらに輝きを増す。
「すっ、素敵!綺麗!可愛いっ!」
卵型のシルエットに天使の羽が飾られた薄いピンク色の輝く石。見ているだけで心が癒される。
「本当に、すごく素敵なペンダントだね」
喜ぶ彼女の顔を眺めながら青年は微笑む。
「(ところでこの二人、関係は?紅谷様の新しい交際相手かな?それとも復縁?)」
私の頭の中を様々な疑問が駆け巡る。
ーーーーーー
「本当に、こんなに素敵なペンダントを作っていただいてありがとうございました!お母様のごちそうもすっごく美味しくて・・ごちそうさまでした!」
石のお渡しも無事に済み、帰る二人を外まで見送る。
「本日は雨天で足元も悪い中お越しいただきありがとうございました。お気をつけてお帰りくださいね。」
私が声をかけると、彼女はにっこり微笑む。
「今日は弟が一緒についてきて来てくれたので雨の日でもへっちゃらです!」
そうか、この隣に寄り添う青年は彼女の弟であったのか。事実を知った瞬間、新しい交際相手だの復縁だのと考えていた自分の思考力の足りなさに若干恥ずかしさを覚えた。
姉を気遣いながら車へとエスコートする弟。
血でつながった姉弟愛というものは、恋人や夫婦間の愛とは何か違う。何が違うのか、具体的に述べよと言われても私にはよくわからないが・・・。
車の窓を開け、手を振る紅谷様に手を振り返す。
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