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04 姉の婚約者
居間に通された松本は、促されるままに上座のソファに座っている。
彼の隣に梨花、その向かいに父親、母親が腰を下ろした。
奏多は少しでも彼らと距離をとりたくて、ダイニングテーブルの椅子にしぶしぶ腰掛けた。
離れて座ることでこの場に居たくないアピールをを試みても、両親や梨花はそれに全く気づかないし、耳に入ってくる彼らの会話はどうやっても遮りようがない。
だから聞きたくもない二人の馴れ初めは、嫌でも耳に入ってきた。
梨花が製薬会社に入社一年目だった去年。
納品で訪れた病院で紛失した定期入れを、松本が偶然拾ったのが出会いのきっかけだ。
彼はそこで放射線技師として勤務している。
お礼と称して梨花が松本をランチに誘ったのをきっかけに、付き合うことになったらしい。
「梨花は本当におっちょこちょいだから。でもそれが縁でこんなに素敵な方に出会えたんだもの。何が吉と出るか分からないわ、ねえ、お父さん」
「ま、まあ、そうだな」
「お母さん。おしゃべりはこれくらいにして、そろそろ食事にしない?」
「あら、もうそんな時間? そうね。梨花は準備を手伝ってちょうだい」
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