彼女のための選択

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「もしかして、誰かの密告ですか?」 「誰の密告でもありません。人事部の調査です」 罪を認めたのかと思いきや、さすが常習犯、違っていた。 「あの……皆川さんにこんなこと言いにくいんですけど」 堀内嬢はハンカチを取り出して涙を押さえ、まるで僕を気遣うかのように悲しげに目を伏せた。 「江藤さんって、皆川さんの前は東条主任を狙ってたんです。だから私を恨んでて……気を付けてたんですけど、何だか怖くて……」 彼女が嫉妬のあまり企んだと言いたいらしい。 恫喝したいのを我慢して深呼吸したが、頭の中で怒りの線が切れる音がした。 本人に向けての攻撃のみならず、こうして陰でも彼女を陥れようとするとは。 それに、江藤奈都を格下に見たニュアンスにも腹が立った。 彼女が内嬢のような女に下に見られる筋合いはない。 それとも“東条狙い”という痛い事実を突かれたせいなのか、僕としたことがわめき散らしたいぐらい腹が立った。
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