彼女のための選択

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*** 年が明け、漏洩問題解決に向けた最終的な動きが始まった。 まず呼び出したのは当然ながら堀内美緒だ。 時間は勤務終了後、場所は人事部会議室。 上司づてではなく、僕が本人に社内メールで告げた。 少し緊張気味に会議室に入ってきた堀内嬢は、部屋に僕一人なのを見て、途端に媚びた笑みを浮かべた。 「皆川さん、お久しぶりです」 「どうぞお掛けになって下さい」 微笑み返し、着席を促す。 「東条主任との食事会以来ですね。彼ともしばらく話していませんが」 「あ……それが実は、東条主任とは、もう……」 堀内嬢はわざとらしく表情を曇らせ、潤んだ目を伏せた。 「じゃあもう彼とはまったく?」 「はい……」 顔を上げて健気な風に微笑んでみせると、小首を傾げて僕を見つめた。 「皆川さんは?あの方とは……」 問いには答えず、正面から彼女を見据える。 「なぜ呼ばれたのか、理由がわかりますか?」 彼女は少し迷ったように僕を見つめた。 人事部会議室という公的な場所ではあるが、彼女にしてみれば話の流れが僕の個人的な接触とも受け取れるのだろう。
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