第十章

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「前科?」 「堀内美緒は前の会社でも情報漏洩の疑いで解雇されています。そのことについてはこれ以上は伏せますが、採用に関しては人事の過失です」 「じゃあ、私はそうと知らずに上司を嫌疑にかける材料を提供してしまったんですか?」 彼女の声は震えていた。 「結果的にそういうことになります」 冷淡になることは容易かったはずなのに、今ばかりは言葉を発する度に胸に何かが刺さるような苦しさを覚えた。 「僕に目的があることは最初に申し上げたと思います」 あの時、東条だけでなく彼女も処分対象になる可能性は頭にあったが、救済するつもりもなかった。 結果的にその後考えが変わり彼を救済しても、彼女を利用するつもりだったこと、僕がそういう男であることに変わりはない。 「あの時“あなたに損はない”って……」 「そうです。あなたに損はないところに落ち着くはずです。仕事資料を鞄に入れたまま見知らぬ男とホテルに入るなど、本来ならば処分対象となりうる行動ですが」 とは言ったものの、本当は司法取引をした訳ではない。 人事聴取の場で言った通り、末端社員に因果を背負わせ切り落としても、原因である組織をそのままにしては同じことの繰り返しになる。
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