第十章

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たとえ結果的に東条を救済しても、彼女を利用したことは事実だ。 それに、東条を救済したことは、相手が誰であっても口外できなかった。 そもそも救済を明かして恩義を売って、誰が得をするのか。 “彼女のお陰で東条が救われた” そんな負い目を東条が彼女に持つことは、恋愛関係が叶った後々、彼女の自信をぐらつかせるだろう。 今の状況では彼女と東条が互いを思いやる境遇でいるのがいいと思う。 「僕の本来の仕事は組織改革案の作成です。派生事項である漏洩問題は手っ取り早く片付ける必要がありました」 事務的な台詞を言い切ってしまうと、ようやく僕は彼女の方を向いた。 彼女はうつ向き、声を立てずに泣いていた。 「座っていて下さい」 彼女のためにティッシュの箱を置くのは、これが本当の最後だろう。 このソファーで逆ギレしてわめいていた真っ赤な泣き顔が思い出された。 余計なことを考えないようにして、僕はコーヒーを淹れるためリビングを出た。
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