第十章

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「終わったらまだ何かあるの?」 「いや。さすがにもう打ち合わせはないよ」 「だったらどこかで飲み直さない?ここじゃ仕事してるようなものよね」 香子は手をつけないままの僕のグラスを指し、気遣うように顔を傾げて微笑んだ。 「いや。今日は帰るよ」 香子は、僕が断る時はいくら誘っても無駄だと知っている。 だからそれ以上誘い文句は口にしなかったが、会場の奥にチラリと視線を向けながら言った。 「彼女と会うの?来てるわね」 彼女はどこかの企業との挨拶を終え、東条を見上げて喋っている。 時々、熱心に頷いているのが見えた。 「彼でしょ?彼女の本命は。かなりのイケメンね」 「ああ」 東条は真面目な男だ。 こうして熱心に彼女の面倒を見ているのは、自分がいなくなった時のことを思っているのだろう。
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