第十章

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自宅に帰り、コートと上着を脱ぐと、ソファーに身体を投げ出すように腰かけた。 ため息を一つついて背もたれに身体を預け、白い壁を眺める。 あれから懇親会終了まで、僕と二人が挨拶を交わすことはなかった。 それが妥当だと思う。 あの聴取のあとで、東条が何事もなかったように平然と彼女を連れて僕に挨拶に来たら、僕はその神経の太さに眉をひそめるだろう。 仕事の相手ではないので、挨拶の必要は互いにない。 しかし、同じ空間に居ながら一切視界にいれずに振る舞ったあの状態は、僕たちの関係がはっきりと変わったことを示していた。 会場でも出口でも、彼女は僕を避けるように視線を背けていたし、顔色もひどく悪かったように思う。 彼女は知ったのだろう──。 ため息をつき、勢いをつけて立ち上がる。 だから、それで? いったい何が問題なのか。
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