第十章

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リビングまで来ると、ソファーを勧める前に彼女に向き直る。 「東条主任とどこかに寄ってきたのではないですか?」 心づもりはしていたはずなのに、僕のリビングで彼女と相対すると、とるべき道を過ってしまいそうな気がした。 だから僕は心許ない意志が崩れてしまう前に、単刀直入に核心の話題を投下した。 彼女はこれまでのようにオドオドと口ごもったりしなかった。 「はい、そうです」 はっきり答え、挑みかけるような目で僕を見つめてくる。 互いの視線を受け止め、これが対決の場であることを確認しあう。 「酒以外に、食事は?」 食事の準備の必要があるかどうかを知りたい訳ではない。 懇親会が終わってから二時間、東条とどんな時間を過ごしたのか。 静かに酒を飲む方が心の距離は密だ。 それを僕は尋ねた。 「懇親会でいろいろといただいたので足りてます」 東条のために思いつめてやってきたのだろう。 間抜けな迷子のくせに、今の彼女はしっかりと僕の意図を汲み、婉曲で返答する。 すっかり女の顔だなと、こんな時に無意識の威力で僕を圧倒する彼女に、内心で苦笑した。
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