第十章

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「そうですか」 ここから先は互いに慎重に言葉を選ばなければならないし、立ったままの口論だけで彼女を帰すのも酷な気がした。 「そこに掛けていて下さい」 コーヒーを淹れようとキッチンに向かおうとした僕の背中に、彼女の単刀直入な質問が投げかけられた。 「最初の夜、バーで私を拾ったのはなぜですか?」 待ったなしで彼女は確かめたがっていた。 もうほぼ確信しているだろうに、東条ではなく、僕の口から真実を聞くためにやってきた彼女の勇気を、僕は無下にあしらいたくなかった。 足を止め、ゆっくり振り返る。 テレビも音楽もつけていない部屋では、エアコンの音だけがやけに大きく感じられた。 青ざめた彼女の顔を見つめながら、腕組みをして壁に寄りかかる。 何がどう違うのか、今日の彼女はいつもよりも綺麗に見えた。 人事の人間としての僕に完全にスイッチできるまで、しばらく僕は沈黙していた。
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