第十章

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しばらくののち、僕は口を開いた。 「あなたが僕の仕事に利用できそうだったからです」 飾らず、誇張もせず、事実ありのままだ。 正当化する気もないし、ことさら悪人ぶる気もない。 でも、言った本人の僕が、抉られるような痛みを感じた。 「最初から東条主任がターゲットだったんですか?」 「そうですね」 認めたあと、さらに正確に言い直した。 「彼に限らず、企画本部全員が対象でした。あなたも含めて」 あの時はまだ犯人は特定できておらず、可能性は全員にあった。 素直に聞かれるまま喋る彼女は、閉鎖的な部門の実情を掴むための絶好のカモだったのだ。 「でも結局は彼に絞られました。リークが繰り返されたのはいつも同じ新聞社でした。マスコミにパイプを持ち、しかも前科のある堀内美緒と付き合っているとなると、疑いは二重でした」 彼女と二人で話すのはもう最後だろう。 この件に深く関係した彼女には、できるだけ隠さず開示した。 どうしても明かせない部分以外を。
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