第十章

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でも、彼女が訴えているのは自身のことではない。 僕も分かっていてわざと逸らしたが、彼女は食らいついてきた。 「主任は機密事項を自ら口外するような人ではありません。社内の恋人が前科者で主任のパソコンのパスワードを盗んだからといって、主任が責任を負わなければならないほどの落ち度なんですか?」 青ざめた頬で、彼女の目はきらきらと強い光を放っていた。 僕が今まで見た中で一番美しい目だと思った。 彼女はそんな目で、他の男の無罪を必死で訴える。 「彼が真面目で、広報として優秀な人物であることは僕も食事会で感じました。彼が漏洩の可能性に素早く気づき、ガードをさらに固めたことも堀内美緒の聞き取り調査で分かっています。ただしリークがあった以上、白ではありません。彼についてはまだ検討中ですが、降格までは至らないと僕は思います。幸い、リークされたのは彼の千葉ではなく茨城でしたからね」 東条の率直な人物評価と、少々の安心材料を投下すると、彼女はしばらく押し黙った。
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