第十章

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「千葉の件が手荒な方法であったことは認めます」 料理人が包丁を命とするように、それぞれの仕事にプライドがある。 僕のとった方法は、彼らが守るものを小道具のように弄んでみせるものだった。 ミスをしたのは彼らだから必要悪だというのは言い訳に過ぎない。 たとえそれが東条を救うためのものであっても。 これまで仕掛けてきた策略が着々と結果を生むのを眺めながら、最近の僕はそのやり方に疑問を感じ、後悔していた。 人事は人の上に立つ天ではないのに、僕は絶対的な力を盾に彼らを下に見ていた。 人事の人間としてまず備えるべき敬意を、僕は払っていなかった。 彼女とのこれまでの時間で、僕はそのことを突きつけられた気がする。 「あと、あなたは主任を裏切った訳ではありません。あなたがいなくても、僕たちはいずれ主任に辿り着きました」 僕は人の心を操ることを軽く思っていた。 彼女に取引を持ちかけた時、信頼関係を結んだ大切な人を裏切ることが彼女をどれだけ苦しめるかは、大した重みを持っていなかった。 あなたがいなくても結果は同じだったというのは気休めだ。
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