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彼女は僕の言葉を噛み締めるようにじっと黙って聞いていたが、僕が喋り終えるとまっすぐに僕を見つめた。
その目から一粒、涙が落ちた。
「でも、私を利用しない方法はなかったんですか?」
しばらく答えられなかった。
答えられないまま、頬を伝う涙の粒の行方をただ見つめる。
小さな雫はゆっくりと滑り落ち、あごのあたりで滲んで見えなくなった。
彼女を見ていると自分を保てなくなりそうで、僕は目を逸らして窓に歩み寄り、カーテンを開いて外を眺めた。
「……あったでしょうね」
否定しなければ、と思う。
なのに、人事の僕が一瞬だけ揺らいでしまった。
否定しなければ、彼女に抱いてしまった感情を認めることになるのに。
彼女に執着する心と、そんな心を処理できない自分に喝を入れるように、力任せにカーテンを掴んで閉じる。
「でも、僕はあなたが思っているような血の通った人間ではありません。僕は自分のために他人を利用する汚い男ですから」
完璧に演じきる自信がなく、カーテンに顔を向けたまま言った。
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