第十章

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彼女は僕の言葉を噛み締めるようにじっと黙って聞いていたが、僕が喋り終えるとまっすぐに僕を見つめた。 その目から一粒、涙が落ちた。 「でも、私を利用しない方法はなかったんですか?」 しばらく答えられなかった。 答えられないまま、頬を伝う涙の粒の行方をただ見つめる。 小さな雫はゆっくりと滑り落ち、あごのあたりで滲んで見えなくなった。 彼女を見ていると自分を保てなくなりそうで、僕は目を逸らして窓に歩み寄り、カーテンを開いて外を眺めた。 「……あったでしょうね」 否定しなければ、と思う。 なのに、人事の僕が一瞬だけ揺らいでしまった。 否定しなければ、彼女に抱いてしまった感情を認めることになるのに。 彼女に執着する心と、そんな心を処理できない自分に喝を入れるように、力任せにカーテンを掴んで閉じる。 「でも、僕はあなたが思っているような血の通った人間ではありません。僕は自分のために他人を利用する汚い男ですから」 完璧に演じきる自信がなく、カーテンに顔を向けたまま言った。
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