第十章

4/26
前へ
/26ページ
次へ
聴取は前回よりも短時間だった。 部門として、守秘義務についてどれだけ施策と管理がなされていたかを把握するためのものだった。 これは東条だけが責めを負うものではないし、今回は参考人に近いかもしれない。 「資料の持ち帰りは原則禁止ですが、部下が守っているかチェックしていましたか?」 人事部長からの質問に、東条は一瞬、返答に詰まった。 答えようによっては、彼女も処分対象になりうるからだ。 彼の視線は人事部長に向けられていたが、本当は僕を見ていたのだと思う。 彼女はいつも持ち帰り残業をしていた。 当然、資料も持ち帰っている。 彼女の実態を知っている“密偵”の僕の前で、虚偽の申告をすることが彼女にとって吉と出るのか凶と出るのか。 「この三名に関しては、保守義務を遵守していたはずです」 彼は敢えて嘘を言った。 自身ではなく、彼女のために。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1795人が本棚に入れています
本棚に追加