第十章

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「だけど企画はどうしても持ち帰り残業が多いでしょう」 人事部長がいやらしく混ぜ返す。 「それは否定できませんが、機密情報に関するものは職場内で行っています」 「カバンに資料は一切入っていないと?」 「……はい」 東条の歯切れが鈍った。 自分がミスを犯した立場だけに、断言しにくいのは当然だ。 すかさず人事部長が筆記の課長に何やら小声で指示し、メモを取らせた。 それを見守る東条の顔色は悪い。 普段、重箱の隅をつつきまくっている僕が言うのも何だが、そこばかりをつつくのはナンセンスではないか。 まさか学生の風紀検査のように部下のカバンを開けてチェックする訳にもいかないだろうに。 「皆川主幹からは何かありますか?」 人事部長が僕に質問役を振った。 東条の視線も僕に向けられる。
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