第十章

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恐らく人事部は個人の処分や注意で体裁を整え片付けてしまいたいだろうが、僕は矛先を人事本部と職場管理職に向けたかった。 「部下個人の処分については人事部の権限なのでお任せしますが」 ここまで言った時、東条がわずかに荒く息をついた。 彼女を救ってやらないのかという抗議だろう。 「外部の僕から見た印象では、末端で規則が建前化する原因はもっと根が深い部分にもあるように思いますね」 「というと?」 人事部長が尋ねた。 「部下の仕事の総量と状況をきちんと把握しているか、適正に分配できているか、個人の能力開発のために十分な環境を与えられているか。組織管理者がこうした基本的なことをできていなければ、漏洩以外にも様々な問題を生みます」 伝票入力を手伝ったなら、東条だって彼女の苦境を認識しているはずだ。 でも、彼個人の力では古い組織の習慣が変えられないのはわかる。 「外部の意見として、行うべき再発防止策はそこだと思います」 個人を切り落としたところで効果はないと言いたいが、あからさまに庇えないのでこの程度で収めることにする。 ついでにかの無能な上層部についても言いたかったが、この場では我慢した。
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