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コーヒーを淹れてリビングに戻ると、彼女はもう泣いていなかったが、泣いて荒れてしまった顔を隠すようにうつ向いていた。
彼女の前のテーブルに、湯気の立つマグカップを置く。
「今日、東条主任に責められたんですか?」
テーブルを挟んだ正面の肘掛け椅子に腰かけながら、さきほどの話題を継承して質問する。
僕はキッチンでの十分足らずの間に、余裕を取り戻していた。
「主任は人を責めたりしません」
「そうでしょうね」
彼女は即座に東条を弁護して言い返してきた。
うつ向いたままの頬は憤慨したように膨らんでいる。
その顔を見ていると、不意に出会った日のバーでの会話が甦った。
“女性を顔で選ぶ男は大抵能無しですよ”
“東条主任は能無しじゃありませんっ”
本当にバカがつくほど素直で単純で一途な女だなと可笑しくなる。
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