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所属人員への説明の大半は人事部長が行った。
情報管理意識が甘くなりリークが続いたこと、他部門から処分者が出たこと。
それからもっとも情報が集まる部門であることの自覚と管理責任を改めて促すための内容だった。
話の間中、彼女は僕には一瞥を向けず、青ざめた顔でずっと人事部長を見つめていた。
彼女の顔を見るのはこれが最後になるだろう。
ごく普通の印象の薄い目鼻立ちに、そこそこに流行りを取り入れた、言葉を変えればそこら中にあふれている髪型。
彼女の顔を見ながら、僕は最初に人事調書で彼女のデータを覚えるのに難儀したことを懐かしく思い出していた。
平凡であるということ。
今はそれが彼女の美徳であるように思う。
彼女は容姿も思考にも他人を刺激する棘を持たない。
その平凡さは、理由もわからないまま、いつしか僕にとって稀有なものになってしまった。
僕を麻痺させる棘を持つのは彼女だけだった。
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