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話の間、彼女はまったく僕を見ようとしなかったが、一瞬だけ、視線を向けた時があった。
部長がリークと他部門から処分者が出たことに言及した時だ。
そこではよりいっそうの対策が必要だと注意喚起するのみで、東条については一切触れられなかった。
東条が無罪になったことを確信したのだろう。
彼女はそれまで避けるように伏せていた目を上げ、僕の顔を見た。
視線が絡まったのは一瞬だけ。
でも、潤んだ彼女の目に安堵が浮かんでいるのを見た僕は、それで十分だと思った。
一週間前の夜、彼女はそうとは知らずに上司を裏切ってしまった事実に傷ついていた。
“私たちは自分たちの仕事と仲間に誇りを持って努力しています。裁く側もそのことを知っていてほしい”
人を物としてしか扱わなかった僕は、当たり前のことを彼女から教えてもらった。
結果オーライという無理矢理な辻褄合わせだが、これでも少しは償いになっただろうか。
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