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しかし、出会いがそうだったように、彼女は僕が考える筋書きからまったく外れた頓狂な行動をする女だということを僕は忘れていた。
しばらく黙ってうつ向いていた彼女が不意にコーヒーのマグカップをテーブルに置き、立ち上がった。
帰るつもりなのかと思いきや、彼女は出口とは逆の、テーブルのこちら側の僕に向かって一歩踏み出した。
彼女の行動の先が読めず、彼女の数歩を息もできずに見守る。
僕の前に立った彼女は青ざめた顔を上げ、まっすぐに僕の目を見つめた。
「……皆川さん」
改めて抗議でもされるのかと思っていた。
しかし、並々ならぬ決意が込められたような表情で彼女が放ったのは、僕の予想をはるか越えたものだった。
「私に、最後のレッスンをして下さい」
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