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しかし、目の前の亡霊は回想と若干違っていた。
たしか回想では、結果としてその後とんでもない顔になったとはいえ、声をかけてきた時はまだまともな状態だった。
目の前の彼女はどこをどうさ迷って来たのか髪は乱れ、顔は涙でベタベタで、世間一般の感覚ならば妖怪と表現した方がよさそうだった。
亡霊あらため妖怪を眺めながら、僕は理解した。
この1ヶ月あまり、僕は何度、彼女への恋心を冷まそうと苦し紛れに欠点をあげつらっただろうか。
平凡な造作。
垢抜けしない服装。
綺麗に泣けない女子力の低さ、
その他もろもろ。
しかし、劣る点をどれだけ列挙しても、そのどれもが僕の好きな彼女の絶対的な構成要素であって、だからこそ他の誰でもなく、だからこそどうしようもなく彼女が好きであることを再確認するばかりだった。
今、目の前の可愛い妖怪は、僕が列挙した特徴をそのまま形にしたような姿で、かすかに震えながら僕を見つめている。
幻は、僕をこんなに色鮮やかな感情で満たしてくれない。
紛れもなく、それは生身の、現実の彼女だった。
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