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彼女の服や髪は驚くほど冷えていた。
「まったく、あなたは……」
暖めようと、きつく頬を擦り寄せる。
こんなに冷えて、こんな顔になるまで泣きながら僕を探し歩くなんて。
こんな、僕みたいな味気ない男を好きになってしまうなんて──。
しかし、ここはバーのど真ん中。
今まで抑えつけていたものがこの場で暴走するのを必死で押しとどめる。
周囲はどうでもよかったが、どうかするとこの場で彼女を押し倒して赤恥をかかせてしまいそうだった。
ところが、僕がかなり切羽詰まった時限爆弾だと知らない彼女は、ずりずりと僕のネクタイを汚しながら顔を上げ、小さな声で心細そうに訴えた。
「好きです……」
ああ……やっぱりもう無理だ。
「続きは場所を変えましょう」
それだけ言うのがやっとだった。
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