二人の夜

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彼女には、狡いことはしたくない。 年貢を納める前に、心の準備も兼ねて、僕は少し意地悪をして、分かっているのにわざわざ聞いた。 「そのうえで、何ですか?」 彼女は鼻息なのか何なのか、ムンッと妙な音と風を発したあと、廊下まで聞こえんばかりの大音量で叫んだ。 「抱かれたいんですっ」 選手宣誓のような色気の無さとヤケクソぶりに思わず吹き出した。 堀内嬢あたりに同じ台詞を吐かせたら余計な色気を混ぜ込んでネトネトした風情になるのだろうが、彼女の場合は実も蓋もない直球だ。 身をかがめ、彼女の頬にまぶたに鼻の頭に、何度も優しくキスをした。 女性にこんなキスをするのは初めてだ。 「可愛い」 こんな台詞を口にできたのも。
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