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「じゃ、早帰りって?」
「家に帰るだけだよ」
「まさか、とうとう自宅に女を……」
「早く行け」
しつこい森田にとうとう痺れを切らし、ため息をついた。
「そろそろ時間だろ」
「課長って、絶対に自宅に女を入れないらしいっすね」
「誰がそんなことを」
「慰労会の時に仁科さんが言ってましたよ」
「開始二十分前だ」
「どんな人だろ。課長の厳しい基準をパスするとは」
お前が今から行くセミナー会場にもうすぐ来るとは言えない。
パソコンに顔を戻し、しっしっと手で追い払うと、ようやく森田は退散していった。
森田のことだから、香子に“厳しい基準をパスした女”が出現したと吹聴するかもしれない。
香子はそれが誰なのかわかるだろう。
「厳しい基準、か」
キーを打つ手を止めて、窓の外を眺めた。
この二週間で奈都がやらかした数々の失敗料理を思い浮かべて、僕の頬が少し緩んだ。
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