ずっと、僕の傍にいて

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重曹水を沸かしながら、菜箸で焦げ鍋をつつく。 半年前の僕なら、今の僕を気がふれたと思うだろう。 「企画書を土曜に仕上げて、日曜に引っ越し……不可能ではない」 報告書だけなら、今晩の“じっくりコース”も不可能ではない。 いかれた男は、逃した二兎、いや三兎をまだしぶとく考える。 「できましたか?」 「まだまだですぅー」 キッチンから声をかけると、間延びした奈都の声が返ってきた。 煩悩を飲み込み、焦げをつつく。 あの夜、バーで僕の隣に舞い降りた歩く平凡は奇跡か、災難か。 ともかくも、それはこれからの僕の人生を賑やかにしてれることだろう。 「まあ、少なくとも退屈はしないだろうな」 湯の中で踊り始めた焦げを眺めながら、まんざらでもない顔で一人ごちた。 (皆川編・終)
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