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星空の見える丘
「ママ、おひさまって暖かいの?」
レンガで土留された階段を登っている途中だった。
娘の陽向(ひなた)が聞いてきた。
お昼御飯を食べた後、いつものように【星空が見える丘】で手を繋ぎながら散歩していた時だった。
昨夜の読み聞かせで太陽の話をしたからかな、と日奈子(ひなこ)は思った。
昼の12時過ぎだが、辺りは暗闇だった。
日奈子が持っているLEDで光るランタンの光だけが二人の足元を照らしていた。
見上げると薄い緑や青や紫に彩られた空に星がひしめき合うように光っていた。
24時間、太陽が昇らない、ずっと夜の生活。
人々はこの生活を何年も続けていた。
【星空が見える丘】は人工芝が敷かれた10mほどの小高い丘だ。
「ママもおひさま見たことないからわからないの。おひさまはね、ずっと隠れてるのよ。」
日奈子はしゃがみながら答えた。
「ふーん」
陽向は左腕でクマの人形を抱えたままちょっと口を尖らせた。
だがすぐに何かを思いついたのか、手を引っ張ってきた。
「お願いすれば、おひさま出てきてくれるかな?」
「さあ、どうかな。上に着いたらお願いしてみる?」
「うん。」
階段を登りきると、そこは小さい広場になっていた。
広場の真ん中にコンクリート製の長いベンチが一基据え付けられていた。
ベンチに座った陽向は目を瞑り、人形を抱えたまま手を合わせ、願いを唱えた。
「お星様お願いです。おひさまのお顔みたいです。」
終えるやいなや、目を輝かせて日奈子を見ている。
「おひさま、出てくる?」
「あら、せっかちさんね。」
日奈子は笑いながら立ち上がった。
「いい子にしてたら、出てくるかもね。」
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