赤いりんご

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赤いりんご

「これはあなたの大切なものです。」 そう言って手渡された赤くて甘い香りのするりんごは半分しかありませんでした。最初はほかの人もそうなのかと思っていました。キョロキョロと辺りを見渡してみると、みんな色形は様々ですがちゃんと1つに見えます。 (どうして私のだけ半分しかないんだろう。) なんでそうなのかわからなかった私は、ちゃんと1つ持っている人たちを観察してみました。その実の使い方は様々です。その実を掲げている者。その実を大切に抱きしめているもの。中には投げて遊んでいる者もいました。けれどみんな、そうみんな。 (キラキラしてて、楽しそう。) ちゃんと1つ持っている者たちはみんな、本当に幸せそうなのです。 「あなたの実は何だったの?」 不意に誰かが話しかけてきました。ニコニコと笑っているその子の手には瑞々しく綺麗な黄色のバナナを持っていました。私はとっさに手に持っていたソレを後ろに隠しました。だって何だかとっても恥ずかしい気がしたのです。ソレを人に見せることがなんだかとっても怖かったのです。 「りんごだったよ。とっても赤いの。」     
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