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「この病室を学校にしてしまえばいいって話しでね、」
天鵞絨は呟くように言う。
「あの学校なら、そう簡単に死ねないからね。四階の窓から飛び降りても無事だったりする。だから、学校のものを使って、僕らの手でこの空間を学校として仕上げるんだ。例えば学校の外に立てるテントみたいに。あすこも学校と呼ばれるだろ?」
「ああ……うん……」
「そうだなぁ、ここはどこだろう。なんて部屋だと思う、聴?」
「……」
あたしは明るい病室を目線だけで撫でる。どこもかしこも白いのは光の反射を起こしてこの薄暗い星で明度を保つため。あたしは口を開く。
「そうだなぁ。こいつ高いところが好きだからさ、きっとそういうところなんじゃないのかな。階段を登った先が好きって言ってたから」
「ふぅん……」
天鵞絨は床に直接ガラスペンの先をあてて線を書き出す。あたしは空気を嚥下する。彼は気休めを言ってるのだろうか。こんなことでなんになるんだろう。暗い色のラインがベッドごと朱殷を囲む。
「死なないよ、朱殷は。まだね、絶対に」
「……どうして?」
「僕らの友人だからね。僕らは決して友人が死ぬことを願っていない」
傲慢だ。目眩がしそうなくらいだった。こんなことでなんになるんだろう。馬鹿みたいだった。そんな言葉で泣いてるあたしが一番馬鹿みたいだった。
「ほんと?起きるかなぁ。あたしもうわかんない。信じてられない」
「起きるよ。絶対にね」
彼は最後になにか文字を書き付けて立ち上がる。
「彼にまた倶楽部に来てもらわないと困る。それに僕は朱殷と仲直りしたいんだ」
「……朱殷って倶楽部なんかしてたっけ」
しまった、という顔をしてから、天鵞絨はぱちんと指を鳴らした。
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