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僕は歌っていた。双子の星の歌だった。もう覚えている人はいないだろう、そんな昔の歌を。
「……ルナぁ……」
もうフロア・ライトは消えてしまった暗い暗い床に寝そべって、ロッドはくぐもった声で僕を呼ぶ。僕は購買部の椅子に座って頬杖をつく。かつん。指先でガラス製のテーブルを叩く。
「ルナ、そのうた、なつかしいね」
「覚えてるの」
「だって。よくうたった歌じゃあないか」
かさかさ乾いた笑い声はロッド特有のものだ。僕は途切れた歌をまた歌い始める。フロア・ライト。やめとこう。僕らには不必要だから。ロッドは相変わらず床の上で寝転がっている。まあ、よく磨かれているだろうし、別にいいだろう。
「ロッド、疲れたんなら眠ったらどうだい」
「え、あー……」
めんどうだなぁ、とロッドは緩やかな口調で呟く。僕はまた歌を歌い出す。星の歌。双子の星の歌。ポルックスとカストル。星の双子。
似ている、のかも、しれない。妹を庇って瀕死となった朱殷。カストルはヒトの子として生まれたので、死にかけた。神の子のポルックスを置いて。仲の良い彼らの神話は好きだった。だからこんな歌を僕はいまだに覚えている……。
「ルナにも、妹、いたよね」
「……うん」
「今頃、なにしてるんだろ」
「さぁ……」
妹は今頃僕が行かなかったところに行っているはずだ。ロッドの口真似をして言うのなら、彼女はもう星に帰ったはずで、僕の思うままを言うならば、彼女はもう死んだはず。
にいさん、とやさしい口調を覚えている。顔は忘れた。ただ、にいさん、という言葉だけ。やさしい少女だった。最後の最後まで地球に置いていった文鳥を思って泣いていた。宇宙船に鳥は乗せることが出来なかったのだ。
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