双子星の距離の概算

3/4
前へ
/15ページ
次へ
「地球から、この星までやって来たことが、歴史の授業で出てきてね」 幾分かはっきりとした口調でロッドが話し出す。 「ちょっと、驚いた。僕らが星を出てきたあの日がこんな、授業に出るだなんてね……そんな遠くに来たんだな……」 「さみしいのかい」 「ん……、さみしい、というか」 ずる、と衣擦れの音がした。ロッドが床から起き上がった音だった。暗闇の中で青い瞳がぴかぴか光った。なつかしい、その色。青空みたいな、瞳。 「虚無感、が」 「虚無」 「僕らの覚えてる青空を知ってる人はもういないんだなぁって」 その青い瞳を細めてロッドは笑う。決して純新無垢な笑みではなく、皮肉な笑い方で、まったく、天使のような顔で悪魔が笑っているようだと僕は思う。 「ルナの瞳は月みたいだね。なつかしい」 「月、ね」 「だから僕はルナのことが大嫌い」 突然の論理の飛躍を見せるロッドに対して僕は、ふぅん、と答えただけだった。シューズを脱いで、椅子の上で膝を立てて座る。膝に頬を預けて、飽きもせず僕はまた双子の星の歌を歌う。 「手の届かないものを、すぐ隣まで持ってくるのは罪だよ。どうせ手は届かないままなら、それは悪と呼ぶべきだ」 「それ、誰が言ったの」 「朱殷」 「それは、聴に対して?」 「ああ。朱殷はあの妹の、やさしさとか、優柔不断さとか、そういうの、嫌いだったから」 「どうして?」 「……手の届かないものだから、って……」 手の届かないもの。つまり手を伸ばしたということで、それが欲しかったということではないのか。 「……朱殷は、聴のこと大好きだって?」 うん、とロッドは僕の問いにうなずいた。僕は少し満足して、ふぅん、と答えた。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加