2人が本棚に入れています
本棚に追加
「地球から、この星までやって来たことが、歴史の授業で出てきてね」
幾分かはっきりとした口調でロッドが話し出す。
「ちょっと、驚いた。僕らが星を出てきたあの日がこんな、授業に出るだなんてね……そんな遠くに来たんだな……」
「さみしいのかい」
「ん……、さみしい、というか」
ずる、と衣擦れの音がした。ロッドが床から起き上がった音だった。暗闇の中で青い瞳がぴかぴか光った。なつかしい、その色。青空みたいな、瞳。
「虚無感、が」
「虚無」
「僕らの覚えてる青空を知ってる人はもういないんだなぁって」
その青い瞳を細めてロッドは笑う。決して純新無垢な笑みではなく、皮肉な笑い方で、まったく、天使のような顔で悪魔が笑っているようだと僕は思う。
「ルナの瞳は月みたいだね。なつかしい」
「月、ね」
「だから僕はルナのことが大嫌い」
突然の論理の飛躍を見せるロッドに対して僕は、ふぅん、と答えただけだった。シューズを脱いで、椅子の上で膝を立てて座る。膝に頬を預けて、飽きもせず僕はまた双子の星の歌を歌う。
「手の届かないものを、すぐ隣まで持ってくるのは罪だよ。どうせ手は届かないままなら、それは悪と呼ぶべきだ」
「それ、誰が言ったの」
「朱殷」
「それは、聴に対して?」
「ああ。朱殷はあの妹の、やさしさとか、優柔不断さとか、そういうの、嫌いだったから」
「どうして?」
「……手の届かないものだから、って……」
手の届かないもの。つまり手を伸ばしたということで、それが欲しかったということではないのか。
「……朱殷は、聴のこと大好きだって?」
うん、とロッドは僕の問いにうなずいた。僕は少し満足して、ふぅん、と答えた。
最初のコメントを投稿しよう!