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「ゆるし。やさしい子だったね」
「うん」
「158日」
ロッドの数字だけの言葉に僕は首を傾げるだけの返事をする。ロッドは僕の姿はきちんと見えているはずだから、こんなおざなりな返答をする。暗闇でも僕らの瞳は見なくちゃいけないものはきちんと見えるのだ。
「聴が朱殷として学校に通った日数だよ」
「……そんなに?」
「うん」
「なぜ」
「さぁ……」
後頭部の髪が引っ張られる。男にしては長い髪、白いミルクに一匙だけ蜂蜜を入れたみたいな、甘い色の髪。
「穴埋めをしたかったんじゃないかな」
ロッドは僕の髪を彼の指にくるくる絡めながら言う。
「ルナがこうやって髪の毛伸ばしてたみたいに。ね、ルナ。妹もこれくらいの長さの髪だったの?」
「……悪趣味」
ロッドみたいに笑おうとして失敗した。ただ声帯がほんの微かに震えただけの、無様な笑い方だった。やはり彼の笑い方は彼のものであって、僕が真似することは出来ないのだ。
にいさん、文鳥が、と妹が脳内で泣いている。無論幻聴である。妹のことを思い出すのは久々だった。そういえば、と僕は口を開く。
「ロッドには、きょうだい、いるの」
「……、」
饒舌な彼が珍しく黙ったので、僕は仰け反って背後に立つロッドの方を見上げる。僕の髪を指先に絡めたままロッドは押し黙っている。
「ロッド?」
「……兄が、ひとり」
「へぇ」
何十年も何百年も一緒にいたのに、お互い今更そんなことを教え合うのがなんとなくおかしくて、僕は少し笑った。ロッドは唐突に床に寝転がる。
「おい、」
「ルナ、歌ってて」
「え?」
「僕が寝るまで。歌ってて」
僕は一呼吸分黙ってから、歌い出す。ロッドは死体のように身じろぎもせずに床に寝転がっている。双子の星の歌。きょうだいの旅の歌。狭くて商品がびっしり並ぶ購買部部室で、僕は低く歌い続けて、ロッドは死体のように眠り続けた。
この歌のように、双子が共にありますよう。もうない星に祈った。
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