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「僕と朱殷は友人だからね」
かさかさと乾いた笑い声を彼はあげる。そしてぱちん!指を鳴らす。
「名前。聞いても?」
「あ……ええと」
「ああ、そうだな。やはり男の僕から名乗るとしよう。僕は天鵞絨(ビロウド)。朱殷からはビィと呼ばれていた。君は?」
絶望的な感じで指先が冷えた。僕は項垂れる。白いシューズのつま先を見つめながら、答える。
「僕は……聴(ユルシ)……」
「ああ、確かにそうだった。僕、君の話しは何度か朱殷から聞いたことあるんだ」
「あの、ビィ」
「君からビィと呼ばれる筋合いはないけど。なんだい?」
「あ、ごめんなさい……あの、ねえ、僕のこと、誰かに言うつもり……?」
「ううん、」
天鵞絨は少し困ったように笑う。僕はそこにほんの少しの人間味を垣間見る。
「そうだなぁ。言うつもりはあんまり無いんだけど、さすがに僕一人じゃ手に負えないや。一緒に行こう、聴」
「どこに、」
ぱちん!と天鵞絨は指を鳴らした。
「購買部さ」
*
廊下を歩く途中で授業開始のベルが鳴っても、天鵞絨は気にしない様子だったので、僕も気にしないことにした。いや、ちょっと嘘。だいぶ気にしている。
「聴、そんな顔をしなくてもいいと思うよ」
「だって……」
「まあ、朱殷は授業サボるの嫌いなヤツだったものね。気にするのはわかるけど」
つま先で天鵞絨はターンして、僕の方を見る。前も見ずに後ろ歩き。ああ、危なくて見てられない。
「コピーは大変だね。まったく君、いちいちそんな顔しなくったって」
「君たちがおかしいんだ」
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