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「君、エレベーターは平気?」
「あ、うん……」
結局手を貸してくれた天鵞絨が僕の顔を覗きこんで聞いてくる。あおいろの瞳を見たら、僕の感情に憧憬が含まれる。知らないはずの青空を思う。
「そう。ならエレベーターで行こう。朱殷はエレベーターが嫌いだから、てっきり君もそうだと思ったんだ」
「ううん、ごめん……言えば良かったんだけど……」
「そんなところも君たちぜんぜん似てないね」
ふふ、と人気のない廊下に天鵞絨の笑い声がこだました。階段の近くにエレベーターホールはある。ちょうど良くやってきたエレベーターに乗り込んで、天鵞絨は1と書かれたボタンを押す。
「好き嫌いの両極端な双子だねぇ、君たち」
「うん……よく言われる」
エレベーターの冷たい壁に寄りかかる。目眩がやっとおさまってきた。
「朱殷は初対面からエレベーターは嫌いだから階段で、って言ってきたし、発表でまごつくのもしないし、授業中に考え事することもなかったから」
「ああ……なら、僕、あんまり上手に出来てないね……」
「良く見てたら、の話しだとは思うよ。今日の今日まで僕も半信半疑だった」
ちぃん、と鈴が鳴る。ドアが開くと眩しいフロア・ライト。一階のフロア・ライトの明るさは別格だ。あんまり明るくて落ち着かない気分になるくらい。
「……ふぅん。もしかして君、一階のフロア・ライトが苦手だろ」
「……うん」
「朱殷は明るくてなにもかもがうつくしく見えるから好きだと言ってたよ」
「僕はね、」
天鵞絨のあとをついて歩きながら小さく零す。
「僕の、きたないところまでぜんぶ照らされてしまいそうで、嫌いだ」
「ほんと、似てないね」
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