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月白は椅子に座り直して、少し傲慢な感じに見える仕草で顎を上げた。
「ふぅん……朱殷は今なにしてるって言うの」
「さぁ……なにしてるんだろ」
僕は誰かをナイフでぐさりとやるような口調で吐き捨てる。
「知らない。きっとあいつは今頃僕が見れない夢を見てるはずだよ」
僕らね、と遠くを見つめる。そんな癖があると指摘したのは僕の友人。朱殷は近くのなにかをじっと見つめるような仕草をよくする。
僕らはそんな半分こばかりしてきた。
「僕らね、母のおなかにいた頃の記憶があるんだ。母が眠っている時、暗い世界で目を開いて。ぱちんと目が合った。僕は朱殷と目が合って、朱殷は僕と目が合った。僕らはね、声帯を使わずに話したんだ。なにを半分こしようか。僕はこれをもらうから、君はそれをもらいなよ、って」
薄く笑う。やはり一階のフロア・ライトは嫌いだ。渦巻く感情を透かすから。だから僕は遠くを見ざるをえない。ああ、酸素が足りない気がする。ちいさく震え始めた手を握りしめた。
「朱殷は、寝てる。ずっと寝てる。僕を庇ってトラックに轢かれたあの日から」
「聴、」
「慰めはいらないよ月白。どうもありがとうね。やっぱり無理がありすぎたかな。あたしなりに頑張ったんだけど」
するりと本来の一人称が口から零れた。視界が濁る。泪を流すのはなんだか屈辱的に感じてしまうので、本当に嫌いなわけなんだけど。あたしは。あたしは。あたしは。
「天鵞絨、月白、どうして朱殷は起きないんだろ……」
「一緒に行ってあげようか」
天使みたいに囁く悪魔がいる。
天鵞絨はあたしの手を取って笑う。階段で手を貸してくれた時みたいに。天鵞絨の手に比べるとあたしの手は一回りはちいさくて、ほんと、どうしようもないな。
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