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「ルナ、ガラスペン、借りてくから」
「絶対返せよ。壊すのも絶対やめろよ」
「わかってるさ」
するりと天鵞絨はガラスペンを品物の群れから取り上げる。
「君、インクは持ってたね?」
「え、あ、うん」
「何色?」
「ブルーブラック」
「ふぅん。いい色じゃないか。この星の色だよ。ルナは」
「僕はここで待ってる」
「そ。じゃ、行くよ」
鳥みたいに天鵞絨は走り出す。あたしの手首を引いて。ああ、やっぱりあたしは朱殷を上手に真似ることが出来ない。彼だったら絶対こんな風に流されないだろうから。
*
ホスピタルは目に痛いほど白いのが常で、そんな空間で静かに眠る朱殷の髪と腕に繋がる管だけが赤かった。トラックとの事故で大量出血を起こした彼は、未だにゆっくりゆっくりと他人の血を細い血管に流し続けている。
彼が目覚めたら烈火のごとく怒りそうだ、とあたしは思う。自由に動く手足を持て余しながら。
「はは、ざまぁないね、朱殷」
ベッドサイドで朱殷は吐き捨てるように言って、なのにその指先はやさしくあたしの兄の額を撫でた。あたしは泣きそうな思いでそれを眺める。朱殷の独特の赤い髪。あたしとそっくりの髪。血みたいだ、って、あたしは呆然と眺めるしかなかった。
「聴、インク貸して」
「インク……」
「うん」
愛用のブルーブラックのインクを差し出す。白いライトにそれを透かして天鵞絨は笑う。
「いい色だね。気に入った。これは、僕らの色に似てる」
インクの蓋を開けて、ガラスペンを瓶の中に突っ込む。少しインクが飛び散って、朱殷の白いシーツにぱたぱたと零れた。星みたい。
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