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「でもその人、この辺にいないんでしょ?付き合ってもいないし、後ろめたいものもないじゃないですか」
その言葉が胸に突き刺さった。
そうだ。だからこそ、私はいろんな人と遊んでいたし、その誰にも興味がなかった。好きでいなければいけないなんてこともなく、むしろ、早く次の恋でも見つけた方がいいと友人たちに言われ続けていた。
「後ろめたくないから不倫します、なんて道理もないでしょ。別れて責任を取ることもできない男なんて、こっちから願い下げだよ」
「きついっすねー」
ほら、否定もしない。たとえ、じゃあ離婚するから、なんて言われても困るのだけれど。
「よく考えて。不貞をはたらいて、好き勝手して。いつか大事な人を手放さなきゃいけなくなったとき、後悔しないって言い切れる?」
こちらも一緒だ。不倫がもし発覚して、慰謝料を請求されたら半端な額では収まらない。そう、前に不倫をしていたときに友人に忠告された。それでもあの関係をやめられなかったのは、それだけ彼が好きだったからだ。彼のタイミングでしか会えなくて、普段は電話すら掛けられなくて。そんな熱も遥か昔のことのように、私はあの人に会ってしまったのだ。私の心を縛って離さない、あの人に。
結局、珍しく真剣に注意をされた大崎は、それ以上続けられる言葉を持っていないようだった。
「大崎くんが嫌いだから言ってるんじゃないよ。本当に話し相手だけならできるけど、少しでも下心があるなら、もう会わない方がいい。一番大切なものを忘れたらダメだよ」
追い打ちを掛けるように、そう伝えた。
その日、しょぼくれたように彼は帰っていった。彼のことを思ってでもあるが、私は、私を守りたかっただけ。面倒事からも、好きでもない男からも、すこしだけ掠める後ろめたさからも。
前は、体からの関係でもなんでも良かった。そこから、本当に好きな人が身近にできさえすれば、私はあの人から解放されると思っていた。けれど人を好きになるって、しようと思ってできることではないことももう分かってしまった。なし崩しに、誰かとの日々を重ねるうちに。
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