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大崎の嫁のことなど知る由もないが、不倫はご免だ。それも、好きという思いすらない間柄で、そんな面倒なものに関わるのはご免こうむるというものだ。
まだやいやい言う大崎の言葉を半ば無理矢理終わらせて、さっさと電話を切った。
夜勤のシフトばかりが続いているせいで、もう随分と友人と会う機会を逃しているとはいえ、この男を話し相手にしようと思ったのは失敗だったと後悔していた。
誰かと付き合うというのは面倒だと思ったのはいつの頃からだっただろうか。
週末が来れば会わなければいけない気になって、連絡は常に取らなければいけないと思わされて。人を好きになれば自分からしたいと思うはずの事柄すべてが、鬱陶しくさえ感じていた。お陰様で、男性とはワンナイトに限ると決め込んでいたのは少し前まで。しかしワンナイトで終わらずに、機会があれば次も次も当たり前のように男たちは求めてきた。別に誰に迷惑を掛けることもなかったから、その生活も悪くはなかったのだが、それも面倒くさくなってしまった。
女は歳をとると性欲が増すのだとなにかの雑誌で読んだことがあったが、まさか自分がそうなるとは思いもしなかった。大切な人ができたとき、一緒にいられれば良かった。それに付き物だから、SEXというものがあるだけだったのに。つい最近まで関係のあった男たちは、その誰に対しても恋慕などという甘い感情はない。性欲を満たすためだけにそれなりに私を甘やかしてくれる彼ら。その雰囲気が存外心地よく、一夜を共にするのは悪いものではなかった。
けれど残ったのは、どうにもならないほどに空っぽの自分だった。
「可愛かったあたしは、どこにいったんだろう」
溜め息が一つ、清々しい日差しの差し込む部屋に落ちた。
晴れ渡った空と、この淀み切った心。この不釣り合いな組み合わせが、まるで今の自分を取り巻く環境のようだ。自分を慕って近づいてくる男たちと、その誰にも興味のない私と。
不釣り合い。
誰かを好きになる、そんな単純でどこにでも落ちているようなものが、ひどく遠く感じていた。
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