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「やっと家に入れてくれましたね」 そう言いながら、そこが自分の指定席なのだと言わんばかりにソファに腰かける大崎がいた。 「あんたが、あんまり暇だ暇だうるさいから仕方なくね」 「ツンデレですねー」 逐一バカだと思ってしまうのは、こういうところ。男の人を、バカだと思いながらも可愛いと思ってしまったとき、私はいつでも恋に落ちてきた。 「今日は珈琲?紅茶?」 「じゃ、珈琲で」 客人を招いているというスタンスだけは崩さないことが、言外ににおわす線引きのつもりだった。 「ミルクと砂糖っているんだっけ?」 「もう、覚えて下さいよー。どっちもいります」 大崎がすこしむくれて言った。 ブラック飲めないんですよー、と話していたこともちゃんと覚えていたが、これもあえて知らないふりをした。好きな人にしたいと思うことを、だったら逆にしなければいい。好みも癖も、知っていたいと思うのは大切な人にだけ。 「なんで俺のことそんなに突き放すんですか?」 勝手に寛いでいた大崎が、こちらに甘えるような瞳を向けていた。 「逆に聞くけど、大崎くんはどうしてそんなに私に近付いてくるの?」 男はバカだから、都合良く遊べる女をほしがる。自分が本当に大切にしなければいけないものを分かっているくせに、簡単に欲に負けるのだ。 「んー、大人の魅力ってやつですかね。俺、年上に弱いんです。うちの嫁も年上なんですけど、我が儘で横暴で、喧嘩ばっかなんですよ。だから、ほしいじゃないですか、癒し」 臆面もなくそんなことを言う。 もし、自分の嫁が同じことをしていたらどうするというのだろう。嫁がそんなに嫌なら別れてしまえばいいのだ。ちゃんと段取りを踏んで、養育費を払って。それを選べもせずに、甘い蜜だけを求めるなんて。なんて都合のいい話なんだろう。 「たかだか、2つ歳が上なだけでしょ。癒しになるような性格もしてないし、第一、話したでしょ。私にも好きな人がいるって」 これも、本当だ。好きな人はいる。もうずっと、長いこと忘れられない人。その人が私のことを好きかどうかは分からないけれど、今付き合えないことだけは確かな人が。
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