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その夜は、久しぶりにベランダで煙草を吸った。ふわっと目の前を揺れながら上っていく煙を目で追っていると、星空が目に入った。
「あー、綺麗。月がないからかな」
月が明るい夜は、星はあまり綺麗に見えない印象がある。その眩しさに、星たちの明かりがくすんでしまうのだろうか。
「あ、流れ星…」
それは一瞬で消えてしまう、一筋の人々の希望の光だった。
神様に、彼の心を私に下さいなんて願ったことなどなかった。神様がもしいるとしたら、それは、人の心を支えるためのものに過ぎない。神の存在を信じる人たちの、ただの心の拠り所だ。けれど、もし星になにかを願うなら私は、自分を好きな自分でいられますように、と祈るだろう。誰かを動かす願いはしない。そんなのは、それこそ不毛というもの。
どうか、私が私でいられるように、見守っていて下さい。
もうとっくに消えた流れ星に、そんな祈りを捧げた。できるかどうかは私次第だから、見守ってくれるだけでいい。
少なくとも、今日回避できた誘惑を思って、私は一人胸を撫でおろした。今日一つ、私は私を好きになれたから。まずはそれだけでいい。月のない星空だけが、そんな私を見下ろしていた。
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