第1章 若気の至りだったんです

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「ふぅ、助かった…… それにしても俺はてっきり、あれは酸っぱい草だと思ったんだが」 俺は体を起こすと、左手に手袋をはめながら言った。 その様子を見て、小娘が呆れたように言う。 「アシッドポーションの材料であるスッパイソウ、表記『スッパイ草』と未鑑定名の酸っぱい草(くさ)は違うと『失敗から学ぶ調合入門(ハーブ編)』にも書いているじゃろ。基本中の基本じゃ」 「紛らわしいわい!なんじゃいその孔明の罠は!? てか既に誰かが失敗から学んでるとか絶対確信犯だろソレ! もっといい名前はなかったのかよ!?」 「ポーションの調合には本来高い技術が要る。 それに加えて学問としては未成熟の調合学、まだ体系化が進んでいるとは言い難い。 当然、名称の分類もまだ十分で無いため、今のような事故も後を絶たず――。 金になるから、という不純な動機で商人がポーションで一儲けしようというのがそもそもナンセンスなのかもしれないのじゃ」 「お前が言っていいのか、それ」 「だいたいこの手のニッチな植物は発見者が勝手に名前を付けるから研究者が混乱していい迷惑なのじゃ。そもそも植物学の父と呼ばれるリーブ・デルナーイもこれらの通称によって体型化にかなり苦労したと言われ、素人判断の命名が植物学ひいては調合学の発展を十年遅らせているともおっしゃられていて――」 「ストップ、ストップ! 話が長いわっ」 気の強そうなおかっぱ、その黒い横髪を揺らしながら、家の中をぐるぐると歩き回り、古風な言葉で論ずる小娘。 まあ毒手持ちの俺がこんな単純作業の効率を上げているおかげで一年くらいは調合学の発展を進めていると考えれば、と言おうとしたがぶたれそうな気がしたので止めた。 実際、この前薬屋でこいつと話していると似たような議論になったので、俺がそう言うと「ホーリーポーションも作れない愚鈍が何を抜かすか」と言われて頭を小突かれた。
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