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「カリン……ありがとう」
「なんじゃ、急に素直にわしの名前を呼ぶようになって、気持ち悪いのう~」
やっぱお前、キツいだけだな。
「今までつっこむ暇も無かったが、『小娘、小娘』ってお主、わしと同い年じゃろ!?」
「そうなんだよなぁ……なんだってこんなちんちくりんと俺が同じ……ぐほぉ!?」
足蹴を食らった。
「キックはねえだろキックは!!?」
「うむ、しかし、お前の悲哀はよ~く分かったぞよ。
こんな健気な若者が将来の希望も無く内職だなんて、お前とこの国の未来が心配なのじゃ。
……とはいえコヤツはまだまだ未熟者……だとすると、ふむ……、そうじゃ、あれじゃよあれ、あの手があった!ワシが直々に掛け合ってみよう」
俺の抗議にも関わらず、何やらぶつぶつ言い始める。
てか「若者が~」とかお前やっぱ同い年じゃないんじゃないのか。むしろ年増っぽくね。
「お主、出掛けるぞ!」
「なんだよカリ……小娘。」
「なぜ言い直すのじゃ!?」
「俺にも幸樹――コーキという名前があるんだが。
もう初めてまともに会話してから一ヶ月になるぞ。
いい加減覚えてくれ」
「今しがたまで不幸ぶってた奴の名前とは思えんのう」
「うるさいわ!!……っと話を戻して――、
出掛けるって?どこへ?」
「わしのお師匠様のところじゃ!」
「師匠って、父お……薬屋の主人か?」
そういえばカリンは薬屋の、養子だった。
彼女は薬屋の主人のことを父親と言うと嫌そうな顔をするため、俺は気を使って主人と言っている。
「違う、あれはあくまでも養父じゃよ」
「違うなら……誰だよ師匠って」
「来ればわかる」
そう言うと、おもむろに外に出る。
風がカリンの髪を揺らした。
「おい、待てよ、行くのは良いけどいくらなんでも唐突過ぎんだろ!」
俺は鍋の後始末もせず、走ってカリンの後を追った。
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