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乾ききった赤土の粘土が山からの風に舞い、砂塵となって吹き荒れている。
周囲一帯どこまで見渡しても砂、砂、そして砂。風化した岩山、朽ちた古木、枯れ果てた泉の痕跡。およそ生命の気配など感じられない西日の差し込む死の世界に、一人、その男は岩場の小陰にじっと身を潜めていた。動物の毛皮を雑につなぎ合わせて作られた丈の長いコートのようなものを半分砂に埋めつつ身にまとい、風上に背中を向け、無駄に体力を消耗することの無いようぴくりとも動かない。その顔は砂避けの大型ゴーグルの下でうつ向き、表情は読めない。吹き荒れる砂嵐の中、風景と同化している男は、フードを目深に被り、ただ今はじっと夜を待っていた。
かつて豊富に産出されていた石油とその利権で栄えた中東、その西部に位置する元々肥沃な河川敷であったこの土地の砂漠化は、何も今に始まったことではない。20世紀終盤、化石燃料に頼りきった一大科学文明を完成させつつあった人類は既にそのエネルギーソースの持つ巨大なリスクに気が付いていた。しかし、そこから数百年、国々は同盟を組んでは「地球環境保全アピール」に終始し、挙げ句いざ異常気象による自然災害が世界中で猛威を奮い、国家の国家たる基本的機能すら危ぶまれる事態に陥ると、今度は手を組み合っていたはずの国同士がその影響力の維持を目的に紛争を始めた。人々は新たな土地を求めた。地球上のどこかにあるはずの、衣食住に不便の無い、穏やかな気候かつ変化に富んだ豊かな理想郷を。己の罪業を放棄した罰として、人類は自滅という形をもって地獄へと堕ちたのだった。
そのなれの果てが、この赤道帯地域から温帯にかけて無限に広がる「死の砂漠」なのである。
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