世界の半分

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「お前が、ここを訪れた初めてのエルフだ」  円形の吹き抜けの底、足元に流れる水を気にも留めず、髭面の男はフロアの壁面に手を当てる。一瞬薄い光が発し、それと同時に何やらモーターが駆動する鈍い機械音が響き、2メートル四方ほどの面が徐々に右へスライドし始めた。髭面の男は口を開いた。 「私があの研究所で働いていた頃はまだ、エルフのような『人ならぬ人々』の存在は公にされていなかった。当然だ、時代の鑑が宗教から科学に移り500年、それも行き着くところまで行ききった極限の時代に、一般大衆の言うところの『非科学的な存在』であるお前達の存在が知れ渡るようなことがあれば、時代はその例外を飲み込めずに内側から崩壊する。過剰進化の成の果てに待っているのは、たった1つの要因による絶滅だと相場は決まっているのでね」 「隠匿の代償に、我々はお前達の実験動物として使われていたんだ。お陰で俺や俺の仲間たちは記憶を複製され、自我意識をいじり回された」 細身の男は刀を仕舞いつつ吐き捨てたが、 「それは極一部で、実際には東欧の森林地帯に広大な保護区を与えられ、その中で種を繋ぐことを許されていたはずだ。人類との闘争に破れた上で文句は言えまい」 髭面の男は当然の事とばかりに返し、さらに続けた。 「『ゴーストパック・システム』。お前達が受けたそれは、人間の記憶と自我をデータとして記録することで身体的制約から解き放ち、電子ネットワークという縛りの下で永遠の命を得ることが出来るようになるという、今から200年ほど前に開発された技術だ。当時は不老不死という永遠の命題に対する答えだと大変持ち上げられたものだが、結果としてそれが文明の衰退と言う最悪の結果を招く事になった」 扉が開いた。大男は振り返り、手招きしつつ問う。 「時に若造、お前は何を求めてその『写し身』を追い求める」 「仲間の記憶だからだ」 痩身の男は応えた。 「今の俺が忘れてしまったものが電子情報で残っている」 「なるほど」 大男は言った。 「108-bか。複製された記憶の半分、お前は野に放たれた方だ。保存される電子情報は記憶と違い、経年劣化を知らない。さしずめ比較実験に使われたのだろう。動機は分かった、お前が求める物はここにある。さあ、入れ」
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