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「どうしたの?」
周囲を見渡すと背後に少女が立っていた。潮風に煽られた長い黒髪を左手で抑えているその姿に俺は見蕩れてしまった。顔立ちもとても綺麗である。多分高校生だろう。
「君こそ、どうしたんだい?こんな時間に、こんな場所で。」
「・・・質問を質問で返さないで。」
彼女はジト目でこちらを睨んでいた。
「それはすまない。俺はね、これからの生活について考えてるんだ。」
そう語りながら俺は立ち上がり、彼女と向き合った。
「・・・それは、どういう意味?」
彼女は首を傾げながら質問してきた。彼女は俺が何を言っているのか、わからない訳では無い「これからの生活を考える理由」がわからないのだろう。
「ちょっとね・・・俺、今の仕事辞めようと思ってるんだ。」
俯きながら俺はそう答えた。すると彼女は興味無さそうに口を開いた。
「ふーん、まぁいいんじゃないの?」
「・・・うん、そうするよ。話を聞いてくれてありがとう。では、さようなら。」
そう言い、今俺ができる最大限の笑顔を彼女に向け、そのまま頭を下げた。そしてそのまま立ち去ろうとした時、腕に何か抵抗を感じた。ふと、手元の裾を見てみると彼女が裾を掴んでいた。
「・・・どうしたんだい?」
「お兄さんは、その仕事は嫌い?」
嫌いなわけがない、中学時代から作家になると夢みて毎日夜遅くまで何度でも何度でも書いて書いて書きまくった。そしてようやく出版することができた。沢山の犠牲をつくってようやく手に入れることができたのだ。
「嫌いってわけじゃないさ、ただもう疲れた。それだけだよ。」
「ごめん、質問変えるね?じゃあ、今の仕事は楽しい?」
そう言われた瞬間、俺は思考が止まった。
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