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出版社ビルから去り、そのまま徒歩でゆっくりと駅へ向かった。また今回もボツか・・・
「ハァ・・・」
溜息を吐きながら俺はある古本屋に入っていった。
「お、来たな。バットエンド作家め。」
そう話しかけてきたのはこの古本屋、「オールドブック」の店長、井上 龍之介(いのうえ りゅうのすけ)だ。若干長めの髪に細い縁の眼鏡をしている。見た目はイケメン文学青年だ。
「うるさいよ、この毒舌イケメン野郎。」
龍之介は顔立ちとスタイルはいいのだが、性格に難ありだ。・・・俺も性格に関しては人のこと言えないが。
「それで?なんか用か?」
龍之介が本を読みながら尋ねてきた。
「いや、特に用は無いけどさ。」
俯きながら俺は答えた。すると龍之介は本を閉じ、こちらを向いてきた。
「嘘だな、お前が用もないのに家から出るわけないだろう。」
「俺はヒキコモリか何かかよ・・・俺でも用なく外には出るぞ。」
そう言うと龍之介は眼鏡をクイッと上げ、凛とした顔で聞いてきた。
「じゃあ聞くがお前何日ぶりに家から出た?」
「え?2ヶ月ぶり位だけど・・・」
うん、本当にそれぐらい。だって買い物ならネット通販もあるし、そもそも自宅のご近所さんとも喋ったことない。
「よし、今日からお前は自宅警備員と呼んでやる。」
「それただのニートやん・・・ちゃんと働いているんですけど。」
毎日死ぬ気で小説を書いています。
「お前もう2年も出版してないんだぞ?もう働いてないのとほぼ一緒だろ。」
龍之介はまた本を読み始めた。
「バットエンドはもうダメなんだとさ・・・」
俺は溜息を吐きながら目の前の椅子に座り込んだ。
「だったらハッピーエンドを書けばいいじゃないか。・・・お前、まさかまだ引きずってるのか?」
龍之介は低い声で聞いてきた。
「ああ、その通りだよ。」
俺は微笑みながら答えた。これが最大限の強がりだ。すると、龍之介は突然立ち上がり俺の目の前にまでやって来てそのまま俺の襟を掴んだ。表情は心なしか無表情だった。
「な、なんだよ・・・」
俺は戸惑いながら龍之介を睨みつけた。
「出て行け。お前みたいなバットエンド作家がいると俺の店もバットエンドしちまう。」
そう言われた瞬間、俺の何がキレた気がした。
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