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 何部の顧問かをお互いに確認したあと、大阪から出てきたばかりらしい彼は特有のイントネーションで尋ねてくる。職場で出会った先生方とはお互いの生徒や授業の話はよくするが、どれも自分が教員だからこそ聞かれることだ。 〈演劇部と……あと言っても分からないと思うんですけど、文芸部で〉  個人的なことを聞かれ、戸惑いながらも嬉しかったからこそ喋りすぎたのだろう。いつもなら演劇部としか答えないのに。一期生として入学した都立高校で文芸部を創部し、部長として三年間活動した。関東圏の国立大に進んでからは、約八十人規模の文芸部で副部長になった。  今は若いという理由だけで未経験なのに運動部の顧問をやらされているが、創作活動に携われるのなら一刻も早く歳を取りたい。  マイナーな部活過ぎて返しに困るかもしれないと一瞬思ったが、関西の人だから『僕も文芸部でー……で、文芸部ってなんですか?』なんてノリで答えてくれるだろうと思っていた。 〈驚いたなあ。僕も大学で文芸部でしたよ〉  予想外の言葉が返ってきた時、私はどんな表情をしていたのだろう。 〈電撃大賞にも応募していて……大阪の文学賞にも応募したんですけど、二次選考止まりで〉  大学院を含めて九年間も所属していると幽霊部員も多くいることは分かっていたが、彼はかなり本格的に活動していた。しかも好きな作家が村上春樹と来た。ライトノベルやアニメ好きが多く集まる中で私のような純文学、それも現代の作家を好む人間は稀有だ。その上、同業者なんて。  それから急速に親しくなり、二人で飲みに行くのを重ねるうちに私は当時の恋人と別れ、自然と男女の仲になった。結婚したら家事は分担するとして、年に何回かお互いに期間を決めて執筆に専念できるようにしようだとか、いつか一緒に文学フリマにも出ようと言い合えるなんて、恵まれているにも程がある。  今までの人も小説を書く私に対して抵抗はなかったが、一緒に書ける人とは交際したことがなかった。執筆だけでなく読むのも私は好きで、一度ブックオフに行くと何時間でもいてしまう。そのことに文句を言わないのが付き合う最低条件であったが、賢治は私と同じくらい棚を見て回り、アパートに戻ると買ってきた本を紹介してくれた。大阪を離れて遠い関東の地に賢治が来たのも、すべては私と出会うためだったのだと、お互い信じて疑わなかった。
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