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マイナス思考
その日、杏子は珍しく寝坊したせいで、いつになく慌ただしい朝だった。
制服を着て必要最低限の身なりを整えると、いつも通り前日に支度しておいた学生鞄を持って、朝食も食べずに家を出た。
異変に気づいたのは、最寄り駅の周辺に来たときだった。
「……あれ?」
曇り空の下で歩く見慣れた通学路の風景に、違和感を覚えた。
目に映る景色。その全てがボヤけていた。
行き交いすれ違っていくもの何から何まで曖昧で、6Hの鉛筆で潤筆書きをしたようだった。
何度も何度も、目を瞬かせては光が差し込む都度に周囲に目を凝らす。
毎日通っている道なのに、夢を見ているような浮遊感を覚えるほど、何もかもがぼんやりしていて気味が悪かった。
だからといって、授業に遅れるわけにはいかない。杏子は、そのまま小走りで駅へ急いだ。
遅刻してしまうかもしれないという焦燥から、いつもより足早に、けれど慎重に階段を登った。
駅の改札を通り、ホームに向かう。途中、スーツ姿の中年男性やラフな格好をした青年とすれ違った。
「何なんだろう、これ……」
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