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昨日まではハッキリと見えていたはずの駅名の一つ一つが、ピントが合っていないのかと思うほど茫漠としていて、この距離では読み取れない。
言いようのない気持ち悪さを少しでも慰めるため、この異変の原因を自分なりに考えてみようと、杏子は思索に耽った。
「――――――あ」
そうして考えているうちに、一つ思い当たる節を見つけた。
テレビだったかインターネットだったか、あるいは本だったか。そこまでは判然としないが、今の自分と同じような症状が、重大な脳の病気の前兆であるという文言を見かけたことがあった。
もちろん、自分がその病気に犯されていると考えるのは早計に過ぎると、頭では分かっていた。
けれど杏子は、自分が根拠もなく早合点するほど暗愚でもなければ、その考えが一笑に付すほど的外れなものではないとも思っていた。
性格的なことも相まって、杏子は必要以上にこの事態を憂慮していた。
とはいえ、心当たりといっても親戚にその脳の病気で亡くなった人がいたというだけの話で、やはり他の人にしてみれば杞憂と一蹴できる程度であることに違いはなかった。
それでも、杏子にとっては気骨を折るに足る懸案であることも、また事実だった。
「うぅ……なんか気持ち悪くなってきたかも」
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