マイナス思考

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 一度悪い方向に思い込むと、もはや悟性は働かず、心なしか吐き気や頭痛がするような気さえした。  いつもは何とも思わない電車の揺れも、今日に限っては、体に伝わる震動が不安を煽る地震のように重苦しく感じるほど。  不安を紛らわそうとスマートフォンを取り出して弄ってみても、今日の授業に向けて復習がてらノート(紛失した時のためにと、律儀にフルネームが書いてある)に目を通してみても、それらを認識する視界がぼんやりしているため、常に思考の中心に不安がこびりついて全く頭に入ってこなかった。  電車に揺られて思考を巡らせていくうち、不安は加速度的に肥大していき、もはや恐怖の領域に踏み込んでいた。  考えれば考えるほどに、杏子の思考は疑念と悲観に囚われていった。  そうして、二十分後に鷺ノ宮駅に着いたときには、女子高生にあるまじき暗澹とした表情になっていた。 「はぁ」  溜め息をつきながら、電車を降りる。無意識のうちに、右手の指はスイレンの造形されたネクタイピンを忙しなく撫で付けていた。 「……」  淀んだ空気を放ちながら、階段を上って改札を通る。 あと十分もしないうちに一時間目が始まってしまうというのに、駅にはちらほら同じ学校の生徒の姿が見受けられた。     
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