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「それで?」
「腕をきつく握られてお前の体を・・・半分・・・ちょうだい、って。」
仁は、溶けたアイスが地面に流れ落ちても気にする事なく話を続けた。
「だから、尊には逃げ切って欲しいんだ。」
「仁?」
「大丈夫かなあ、って思ったんだけどさ、やっぱり駄目みたいだな。本当は言わなきゃ良かったけど、どうしてこうなったかお前には知っていてほしくて。ごめんな、俺の我が儘でお前を巻き込んで・・でも、俺も怖くて・・死にたくないよ。」
独り言のように呟く仁の手を、溶けたアイスではなく、赤い液体が伝って地面にポタリと落ちた。
「えっ、仁?」
彼の顔の中心に赤いラインが入っている、良く見るとそれは上から下まで。
「ごめん、尊。お前は頑張って逃げてくれ。」
「仁?」
立ち上がった仁は、その場でまるでチーズが裂けるようにベリベリと二つに別れて、肉が落ちる特有のグチャッという音を立てて崩れ落ちた。
「うっ、うわあああああーーーーーー!」
俺の悲鳴を聞いたコンビニの店員が直ぐに飛び出してきたが、あまりの凄惨さに口元を押さえて中へ戻って行った。
直ぐに救急車と警察を呼んでくれた為、対処も早かったが、俺はその日は警察に呼ばれて散々事情を聞かれた。
出来事を素直に話したところで、現実主義の警察が信じてくれる事もなく、かといって人間が縦に真っ二つになるなんて今までに例がなく混乱しているのは明白だった。
俺は迎えに来てくれた両親と家に帰り、部屋に引きこもった。
警察署で刑事らしきおじさん達がヒソヒソ話しているのが聞こえた。この事件は初めてではない事・・・他にも体が裂けて半分になった人間がいるという事だ。
俺は真夏なのに布団を頭から被り、ガタガタ震えていた。
仁のあんな姿を見て「あの話」を信じないわけにはいかなかった。
男が追いかけてくるんだよ。ーーー
逃げなければ、死。
とにかく、今は眠らないようにしなくては。
俺はヘッドフォンで好きな曲を大音量で流してスマホのゲームを始めた。
何も考えたくない。今はただ、眠くならないように・・・・・・・。
しかし、仁の事件、事情聴取と体も脳も限界だった。
頭がふらつく度、自分を思い切りつねったり、叩いたりしたが、それも無駄な足掻きでしかなかった。
ーーーーーーーーー
真っ暗だ。
真っ暗な空間。
そこに俺は立っている。
なんだ、ここ。
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